2012年6月5日火曜日

不良債権処理と産業構造改革


不良債権処理と産業構造改革

不良債権処理と産業構造改革

今井亮一

2002年06月18日

実務的な点で誤りが多いかもしれません。気付いた方はご指摘ください

目次

はじめに

不良債権とは何か

不良債権の存在がなぜ低成長の原因なのか

不良債権処理とは、要するに何をすることなのか

不良債権の最終処理は日本経済の産業構造改革である

不良債権は即刻処理すべきか、それとも先送りすべきか

不良債権問題と銀行業のビジネス・モデル

参考文献

はじめに

本稿では、不良債権処理と経済成長の関係をめぐる論点を整理する。

日本政府は不良債権の最終処理を急げ、というメッセージが、市場関係者やアメリカ政府当局から繰り返し伝えられている。確かに、現在の日本経済を覆う不透明感の一掃には、それが不可欠であろう。しかし、「不良債権最終処理」の名の下で、実際に何をやるべきかというと、必ずしも意見の一致が見られない。

不良債権とは何か

債権は、その返済状況に応じて、次のように分類される。

第一分類: 正常先(計画どおり返済が進行している債権)

第二分類: 要注意先(返済日程の延期や金利減免措置が取られている債権)

第三分類: 破綻懸念先(返済計画通り返済されておらず、借り手が経営不振に陥っているとみられる債権)

第四分類: 破綻先(事業そのものが破綻しており、返済の見込みがまったくない債権)

債権が健全か不良かの区別は、景気に依存し、きわめて流動的である。例えば、現在、不況下で不良債権の借り手とされている企業も、景気が良くなれば業績が改善し、利払いや返済ができるようになるので、不良債権は健全債権となる。

また、不良債権の借り手には、債務を免除してもらえば自立できる企業と、債務がなくても財政による補助や規制によって保護してもらわなければ存続できない企業(構造不況業種)がともに含まれる。

不良債権の存在がなぜ低成長の原因なのか

日本政府は、ケインズ的総需要管理政策によってバブル崩壊以後の不況から脱出しようと、拡張的財政政策を続けてきたが、成長率の引き上げにはつながらず、非効率的な建設・不動産業や流通業を延命させただけであったとされる。このような非効率な企業が銀行の不良債権の借り手となっている。

不良債権をかかえた銀行がたくさんあることが、低成長の原因であるとしばしば主張される。しかし、その正しさは自明ではない。一般には、「不良債権があると銀行がリスクを取れず、新規の貸し出しを増やせないので、資金が有望な貸し出しに回らず、景気が低迷している」というのが、この説に基づいて世間に流通している論調であろう。

しかし、銀行はなぜ有望な投資先があるにもかかわらず、融資しないのだろうか。

実際には、日銀のいわゆる「量的緩和」政策によって、銀行には大量の資金がある。有望な貸出先を見出せない銀行は、この資金をもっぱら国債購入に充てている。

おかげで莫大な累積財政赤字にもかかわらず、現在、長期国債金利は1%台という低さである。銀行はいつでもこの国債を売却して、2%以上のリターンが見込める有望な貸出先に融資できるはずである。

また、大量発行されている国債の価格はいつ暴落してもおかしくない状態であるから、有望な貸出先をどこか民間に求めたほうが、リスクへの対応という点から見ても望ましいはずである。しかし、日銀がいくら金融緩和を進めても銀行の貸し出しは増えないのが現状である。

もし実際に収益率2%以上の有望な貸出先がどこにも存在しないのであれば、「不良債権元凶説」は、我が国の低成長を説明する理論としては失格である。有望な貸出先がそもそもないのであれば、仮に不良債権を完全に処理しても、景気は回復しないであろう。

このように、不良債権問題が低成長の原因であるためには、有望な貸出先があるにもかかわらず、貸し出しができない特別な理由が必要である。

そのような仮説として有力なのが、「デットオーバーハング(Debt-Overhang)説」や「ディスオーガニゼーション(Disorganization)説」である。

まず、「デットオーバーハング(Debt-Overhang)説」について説明しよう。

過剰債務を抱えている事業会社が有望な投資プロジェクトを見出しても、新しい債務は既存の債務に対し劣後するために、新規投資の収益は失敗した古い投資プロジェクトの債権者によって大方回収されてしまい、新たな資金提供者の手には入らないことが多い。

そこで、どんなに有望な新規投資であっても、資金提供者が見つからないということが起こり得る。

これに対して、当然、次の反論が予想される。既存の債権者が資金を提供すれば、結果的に既存債権が回収されるわけだから、何の問題もないではないか、と。

しかし、既存債権者が資金提供することは、借り手にとって、事実上、既存債務の履行を免除してもらったようなものである。この時、債務者には、仮りに新規プロジェクトが失敗しても、銀行が追い貸ししてくれると予想して、事業遂行にあたって万事怠けるインセンティブが生じてしまう。すなわち、モラルハザード(道徳の失敗)の発生である。


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債務者のモラルハザードを未然に防ぐため、既存債権者は、どんなに有望な新規案件があろうとも、失敗した経営者に対し安易に追加融資を行うわけには行かなくなるのである。

一方、「ディスオーガニゼーション(Disorganization)説」では、不良債権問題そのものが有望な投資案件が存在しない理由になっていると考える。

一言で言えば、取引先がいつ倒産してもおかしくない状況では、安心して新たな取引関係を開始することができない、ということである。

経済では、無数の企業が連鎖して取引関係を築いている。A社は取引相手B社を信頼して製品を納入し、B社の振り出す手形を受け取る。もし手形が期日に決済されなければ、A社は製品の原材料の仕入先C社に代金を支払えなくなって倒産してしまう。A社がB社と取引を開始するかどうかは、B社が決済可能な手形を振り出してくれるかどうかに依存する。それはさらに、B社がどの程度借金を抱えているかということだけでなく、どのような企業と取引関係を結んでいるかにも依存する。A社にとって、B社の財務状態を知ることは比較的容易であろう。しかし、A社と直接取引はないが、B社とは取引関係があるD社の財務状態について知ることは、はるかに難しい。それどころか、A社がB社の取引先としてどのような会社があるかをすべて調べ尽く すことなど到底不可能であろう。こうして、A社はB社との取引の開始に二の足を踏まざるをえなくなる。これによって、A社とC社、B社とD社の取引もまた成立しなくなってしまう。

このように、蜘蛛の巣のように張りめぐらされた企業間ネットワークは、不良債権が存在するとまったく機能せず、有望な貸出先が存在しない理由となるのである。

これらの説が正しいとすると、債務不履行の企業を法的に整理し、企業間ネットワーク上の「がん」を切除することによって、長期的に経済の成長力を高めることができるということになる。

不良債権処理とは、要するに何をすることなのか

まず、間接償却直接償却を区別する必要がある。

間接償却とは、銀行が、債権が予定通りに回収されない場合に備え、予想される損失をあらかじめ貸倒引当金として積み立てておくことである。これによって借り手企業との関係は存続し、経営再建のために追加融資が行われることもある。この場合、企業の経営がさらに悪化した場合、損失が拡大するおそれがある。

次に直接償却とは、債権の回収をあきらめ、損失として処理し、バランスシートから外すことである。直接償却を、不良債権の最終処理、ともいう。

直接償却には、法的処理、債権放棄、債権売却等がある。

まず、法的処理の場合、担保処分などが行われ、債権の一部は回収されるが、担保を処分された企業は倒産する。ただし、担保処分では期限内で担保物件を「叩き売り」しなければならず、あまり多くを回収できないことが多い。

ここで、会社更生法による処理と民事再生法によるそれとを区別する必要がある。違いは複雑だが、基本的に、会社更生法による処理の場合は、現経営陣は責任を問われ退くが、民事再生法による場合は、会社の再建が現経営陣によって行われるという違いが重要である。

これに対し、債権放棄の場合は、銀行はすべての債権の回収をあきらめるので、企業が担保処分されることはない。企業は存続し、銀行から再建のための追加融資が行われることも多い。経営者の責任は追及されないので、「事業に失敗して借金を返せなくなっても、どうせ免除してもらえる」という意識が生まれ、リスクの高い案件に安易に投資するという、経営者のモラル・ハザードが発生する。

さらに債権売却とは、銀行が債権を第三者に売ることであるが、ここで問題となるのは、売却価格をどうなるかである。

まず、簿価売却の場合、未返済残高のすべてを買い手から受け取るので、売り手の銀行は損することはない。

次に時価売却では、買い手は銀行に担保処分等によって回収可能な金額のみを支払う。この時、銀行は損失を決算に計上しなければならない。

しかし、整理回収機構が不良債権を購入する場合、通常、価格はさらに低くなる。整理回収機構が損失を被った場合にそれを補填するのは税金(つまり、国民のお金)であるから、同機構は、損失が発生しないことに最大限の注意を払わなければならない。そのため、買取価格は著しく低くなり、簿価の1〜2パーセントということも珍しくない。

この場合、銀行にとってほとんどタダで不良債権を売ることになるから、どうせタダなら、売らないで持っていよう、ということに成りかねない。しかし、これでは、不良債権処理を促進しようとする整理回収機構の目的に反する結果となる。

そこで、国民負担も辞さず、銀行が喜んで手放す価格で不良債権を買い取ろうという動きが出てくる。

例えば、整理回収機構が不良債権を、実質簿価=簿価−貸倒引当金、で購入することが提案されている。

不良債権の最終処理は日本経済の産業構造改革である

不良債権を間接償却する場合には、金融機関と借り手企業の関係はそのまま存続する。

これに対し、最終処理では、債権放棄の場合を除いて、金融機関と借り手企業の関係は清算される

すなわち、不良債権の最終処理とは、実体経済の活動に大きな影響を与えるという意味で、日本経済の産業構造改革である。

産業構造改革が日本経済にとって必要なのは、不良債権を抱えたままの日本経済の成長力は、不良債権のない場合よりも確実に低い、と考えられるからである。


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ここで問題となるのは、不良債権を抱えた状態から、それを処理した状態への移行戦略として、なぜ最終処理が景気回復より望ましいのか、ということになる。

景気回復がなぜ不良債権処理となるのか。銀行関係者を含む多くの有力エコノミストはしばしば次のように主張する。

「不良債権処理」とは、銀行が不良債権を売却したり、債権放棄等によってバランスシートから外すことであって、借り手との取引を清算することでは必ずしもない。

景気回復によって不良債権の借り手も利払いや返済ができるようになれば、これを原資に引当を増やすことができ、処理も進む。

もし景気回復がなければ、銀行の収益も増えないから引当原資がなく、不良債権は減らないのみならず、むしろ新たな不良債権が増えてしまう。だから、不良債権処理のためには景気回復が必要なのである」

これに対し最近では、借り手との関係を清算し担保不動産を処分することこそが不良債権の処理であり、引当金の積み増しや債権放棄は問題の先送りにすぎないという声も強い。

ここで、財政政策インフレによって不良債務が少なくとも一時的に健全化した場合に何が起こるかを考えよう。まず、超大型補正予算等の拡張的財政政策によって、国債暴落を招くことなく景気回復に成功した場合である。

この時、銀行の不良債権の借り手となっているゼネコンや中小企業等は、すべて生き延びることになる。これまで利払いすら滞るということで不良債権に分類されていたこれら企業に対する債権が、景気回復と同時に優良債権となる。こうして景気回復とともに不良債権は減る。

さて、この状態を、不良債権がなくなった日本経済の新たな成長ステージの幕開けと呼んでよいであろうか。

答えは否である。これらの企業は、財政資金によって延命しているにすぎない。景気回復後、政府が財政再建路線に転換すれば、ただちに経営が立ち行かなくなることは明らかだ。

もちろん、景気回復によって政府に潤沢な税収が継続的に発生すれば、それを使って永遠にこれらの構造不況業種を支えても良いかもしれない。しかし残念ながら、それはありえない。

なぜなら、これらの企業の延命のために建設された社会資本は、もともとあまり必要のないものである。多くの公共事業がその地方の成長力を高めていないことはよく知られている。必要のない公共資本だからあまり利用されず、経済成長にも貢献せず、結果的に税収が上がってこない。

公共投資がその事業それ自体の採算が取れなくても正当化されるのは、それが社会的に必要であるか、それによって経済成長が促進されると考えられる場合だけである。

公共投資によって、その地方の成長率が高まるならば、それが高い税収の伸びに結びつき、最終的に政府全体として採算が取れるはずである。もし長期的に高い税収が見込めなければ、そもそも公共投資などやるべきでない。

要約しよう。構造不況業種を延命させる公共事業によって景気が回復しても、それは日本経済の成長力を高めないから、税収の伸びに結びつかない。したがって、これらの業種を長期的に財政で支えつづけることは維持可能(sustainable)でなく、優良債権はすぐに不良債権に転落する。

次に、調整インフレやインフレ・ターゲッティングによって不良債権を処理できる、という議論はどうであろうか。確かに、インフレにより、不良債権の実質残高は低下するし、借り手のキャッシュフローも増加するであろうから、返済も進み、不良債権は減るであろう。しかし、これは必ずしも、借り手企業が長期的に存続できることを意味しない。

インフレによる実質債務価値の低下は、貸し手から借り手への所得移転であるから、いずれインフレを反映して名目金利が上昇し、長期的に構造不況業種が生き延びることはできない。

つまり、インフレ・ターゲッティングは、あくまでも目先の痛みを和らげることであって、長期的に構造改革や産業構造の調整が必要な状況を、インフレによって回避できるということはない。

インフレによって企業が長期的に救済される場合とは、その企業が、本来は構造的不況業種に属さず、バブルのときにたまたま血迷って土地に手を出してしまったというような場合にのみ限られる。

このような企業にとって、借金返済をしながら事業を続けて行くことが難しいのは、財政資金に頼らずに獲得できるキャッシュフローに比べて、過去につくってしまった借金があまりに大きいからである。ところがインフレによってキャッシュフローが増え、借金のうち固定金利の割合が高ければ、自力で借金を完済する可能性が出て来る。

インフレによって固定金利の債務を負担している企業が救済される場合には、反対から見れば、固定金利債権の保有者に損失が発生している。インフレによって金利が上昇しているから、固定金利債権の価値は下落しているからだ。

つまり、インフレによって債権者から債務者へと所得移転が行われることを通じて、地価暴落の損失を再分配していることになる。バブルの責任者は土地を買った不動産事業者にのみあるのではなく、彼らに資金を貸した銀行、ひいてはそのような銀行に預金した国民にもあると考えられるから、このように再分配を行うことは社会的正義に合致するであろう。

以上を要約しよう。インフレや景気回復によって、確かに短期的に多くの不良債権が健全化する。しかし、長期的に存続し得る企業とは、借金さえなくなれば本業で自立できる企業に限られ、財政資金や規制によって延命している構造不況業種の整理は、結局のところ、さけることができない。

不良債権は即刻処理すべきか、それとも先送りすべきか


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前節で見たように、不良債権の借り手とされている企業には、債務さえ免除されれば自立できる企業と、債務がなくても財政資金等による補助がなければ存続できない企業(構造不況業種)がともに含まれている。インフレや景気回復などによって、これらの企業はとりあえず救済されるが、長期的に後者が淘汰されなければ、日本経済の成長率は低成長のままにとどまる。

そこで問題は、構造不況業種の淘汰のために、不良債権の最終処理を景気の悪い今、直ちに実行すべきか、それとも景気が回復するまで先送りにすべきかということである。

長期的に構造不況業種は清算されなければならない。しかし、それにともない、大量の失業が発生するおそれがある。

そこで、仮にインフレや景気回復によって既存の債務が処理された後でも、財政資金の投入さえなければ、構造不況業種はいつかつぶれるはずだから、大量失業という多大のコストを支払ってまで、無理して今、最終処理を推進する必要はないではないか、という考えることもできる。

しかし、処理を銀行のペースにまかせ、先送りすることは、現在、日本経済を覆っている暗い不確実性を、いつまでも放置することになる。それでよい、というのがこれまでの政府の方針であった。

しかし、景気回復を待って処理するという方針の問題は、一時でも景気回復すれば、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という具合に、構造不況業種を財政的に援助しているから景気が回復したに過ぎない、ということを忘れてしまい、産業構造の転換がさらに先延ばしになる、ということであろう。つまり、危機感がないと構造改革はできない、という政治的事情がある。

このような政府の「問題先送り」姿勢には、最近、大きな変化が見られる。金融機関の預金保護に上限を設ける、いわゆるペイオフ解禁が、2002年4月にスタートしたからである。

しかし、即刻処理という道を選んだ場合、債務がなければ自立できる企業を無理やり倒産させてしまうということにもなりかねない。

例えば、最近(2002年春)に問題となっているのは、金融庁が作成した金融検査マニュアルの機械的な適用によって、優れた技術を持った中小企業が強制的に清算されていることである。

金融庁はペイオフ解禁にあたって、金融機関の資産内容の厳格な査定を進めた。これによって、新たに不良債権が増えた金融機関は、貸倒引当金を積み増さなければならない。

ここで新しいのは、金融庁が、十分な引当金を積もうとすると自己資本不足に陥る金融機関に対し、容赦なく業務停止、清算を命ずるようになったことである。

これによって困るのは、これまで金融機関に運転資金を依存してきた多くの中小企業である。

中小企業金融の世界では、通常、売買は手形の振出によってファイナンスされている。手形をそのまま持っていても、その決済日までは、中小企業は現金を手にすることができない。

そこで多くの場合、中小企業は、手形を金融機関に持ち込んで割り引いてもらうか、手形を担保に運転資金を融資してもらうのが、これまで通例であった。このような中小企業の資金需要に対し、これまで応えてきたのが、信用金庫、信用組合であった。

しかし、引当不足によって、これまで世話してくれていた信用金庫や信用組合が強制的に業務停止に追い込まれると、中小企業は新たな貸し手を探さなければならない。

金融検査マニュアルが問題となるのは、ここである。

金融検査マニュアルでは、借り手企業のキャッシュフローに注目し、債務超過が数年間以内に解消されないような企業に対しては、銀行、信用金庫、信用組合からの新たな融資を禁止している。そのような放漫な融資が不良債権の累積につながった、との認識が、当局にあるからである。

我が国の多くの中小企業は、慢性的に経営不振・債務超過に陥っている。「かかりつけ」の金融機関ならば、そのような厳しい状況でも、融資に応じてくれる。しかし、新しい貸し手の場合、金融検査マニュアルを厳密に守らなければならないから、そう簡単に融資してくれることはない。

しばしば、我が国には赤字法人が異常なほど多い、と指摘される。これはなぜであろうか。

これまで中小企業は、いわゆる「系列」に組み込まれ、大手企業に対し、部品、中間製品等を納入してきた。

大手企業のリストラにともない、中小企業は納入単価の引き下げを、無理矢理呑まされて来た。例えば、単価引き下げに応じなければ、取引関係を見直す、と迫られてきたわけである。

実際、リストラに成功して黒字転換した大手企業、最近では、例えば日産自動車の系列部品メーカーでは、赤字が深刻化している。これに対し好決算が続くトヨタ系列の企業では、親会社と同様、好決算である。

こうして不況時には、中小企業は赤字決算を強制される。これまではすぐに景気が回復してきたから、たまった赤字を何とか好況時の黒字で解消することができた。

しかし最近のように不況が慢性化してくると、大企業から押し付けられた赤字を解消する方法はどこにもない。こうして、中小企業の経営不振が深刻化するのである。

これまでの貸し手を失い、新たな貸し手を見つけることに失敗した中小企業は、もはや倒産するしかない。

このようなメカニズムによって、最近、事業不振が原因ではなく、これまでお金を貸してくれた金融機関の閉鎖によって、中小企業が倒産に追い込まれる場合が増えてきた。

こうして増えた倒産を、肯定的に見ることも可能である。そもそも赤字企業、債務超過企業は経済の非効率の証拠だから、倒産させるべきだ、というのである。


しかし、取引金融機関を強制的に閉鎖してまで、中小企業を政策的に整理することが適当かどうかは、多いに疑問である

なぜなら、そごう、ダイエー等の大企業に対しては、倒産させると社会的影響が大きい、という意味不明瞭な理由によって、まことに軽々しく債権放棄が行われているからである。しかし、これらの大手企業の効率性評価は、全くなされていないと言ってもよい。

不良債権問題と銀行業のビジネス・モデル

深尾光洋は、不良債権問題の解決とは、今現在、存在する不良債権のストックを処理することなどではなく、今後、フローとして発生してくる新たな不良債権を、利益の範囲内で償却できるだけの収益力を持ったビジネス・モデルを、銀行が確立できるかどうか、という問題だと指摘する。

深尾によれば、銀行はバブルの崩壊によって生まれた不良債権の処理はほぼ完了しており、問題はむしろ、景気低迷によって発生し続ける新たな不良債権にある。

すなわち、経済のグローバル化により、企業経営はかつてないほどの不透明な環境の中にある。つまり、高い期待収益を生むプロジェクトはたくさんあるが、失敗するリスクもまた上昇しているので、貸した金は必ず返って来るという前提で融資する銀行のビジネスのやり方それ自体が、時代遅れ、というわけだ。

これまでは、銀行の貸し方は、手堅い融資先に、できるだけ低利で貸す、というものであった。

しかしこのような商売の仕方では、現在のような低金利の状況では、ほとんど利鞘が取れない。

そこでこれからは、安全な借り手はもはや存在しない、と割り切って、銀行は、積極的に高い金利を要求するビジネス・モデルに転換していかなければならない、というのが深尾の意見である。

例えば、0%の金利で預金者から預かった金を2%で企業に貸し出すとする。貸倒れがなければ、利鞘は2%である。銀行の経費率は総貸出資産に対し約1%であると言われる。このとき、銀行の利益率は1%である。

もし貸倒れ率が1%未満であれば、銀行は新たに発生する不良債権を利益の範囲で償却することができ、自己資本を擦り減らすことはない。

しかし、現在の貸倒れ率は2%を超えている。したがって、年々総資産の1%以上の自己資本が毀損していくことになる。

そこで、銀行が貸出金利を3%以上に引き上げない限り、金融システムの維持のためには公的資金の投入によって貸倒れを処理するほかなく、いずれ銀行は国有化されることになる。そのとき、国民は、銀行の損失を、際限なく負担し続けることになる。

この悪循環を断ち切るには、銀行が貸出金利を引き上げるしかない。では、どれぐらいの金利引上げが必要であろうか。

現行の2%の貸倒れ率を前提とすれば、単純に考えて、0%の預金金利に対し、3%に貸出金利を設定する必要がある。

しかし実は、これでは十分でない。

というのは、現行の2%の貸倒れ率は、2%の貸出金利を前提としているからである。

貸出金利が3%になれば、当然貸倒れ率は上昇する。例えば、それは2.5%に上昇する。この場合、貸出金利を3.5%に設定しない限り、銀行は自立できない。

しかし、3.5%の貸出金利の下では、貸倒れ率はさらに上昇する。それでも、システムが安定的であれば、いずれ、

貸出金利=預金金利+貸倒れ率+経費率

という等式が成り立つように、うまく貸出金利を設定することができるはずである。それは例えば、4%ぐらいであろう。

これで銀行システムは政府の管理から自立して安定する。しかしこの過程で、例えば貸倒れ率は現行の2%から3%に上昇することになる。すなわち、我々は、これまでよりもリスクの大きい社会で生きることを覚悟しなければならない。もちろん、「負け組」企業は容赦なく撤退を迫られる。

ところで、経済システムがこのように安定的とは限らない。貸出金利の引き上げを上回る貸倒れ率の上昇がある場合には、銀行が自立できる均衡貸出金利は存在せず、金利引上げとともに、経済はクラッシュのプロセスに突入してしまう。

したがって、銀行のビジネス・モデル転換が成功するためには、経済システムの安定性が必要である。

深尾は、現在のようなデフレの下では、そのような安定性は確保されないから、まず、金融政策によってデフレを終焉させることが不可欠であると論じている。

日本銀行が「物価安定」という名目の下にデフレを容認しつづける限り、不良債権問題の解決はない、というのが深尾の結論である。

参考文献

『エコノミックス(5): 緊急特集・金融の論点』(2001)(東洋経済新報社)

小林慶一郎・加藤創太(2001)『日本経済の罠』(日本経済新聞社)

深尾光洋(2001)『日本破綻』(講談社現代新書)



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